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『理由なき殺人の物語―「大菩薩峠」をめぐって


<闇のなかで跳躍する 陽気な「怪物」たちへ。>


■ 廣済堂ライブラリー 004

■ 廣済堂出版 (1000円+税)

■ 2001年4月

■ 214ページ

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   <紹介文>

 これは5月に創刊された「廣済堂ライブラリー」(編集委員 柏木博・黒崎政男・香山リカ)の一冊なのですが、『腕時計の誕生』や『第三の眼』などメディア論関係の本とならんで置かれているのをみると、これだけが浮いているような感じです。タイトル文字を可能なかぎり大きくした斬新な装丁にもよるのでしょうね、「理由なき殺人」という言葉がめだちすぎというか。気の弱い人なら、手にとるのをためらうかもしれない。
 ここ5、6年、「理由なき殺人」という言葉で語られる殺人事件が急増しています。だから、この本は、ジュンク堂の書籍分類でも「現代社会分析」になる。社会評論、犯罪論、社会学的な事件分析……といった印象をもたらすタイトル。
 しかし、これはサブタイトルにもあるとおり、『大菩薩峠』という小説をめぐる文芸評論なのです。それにしても、このサブタイトルの字があまりにも小さい。おそらく、心優しいブックデザイナーは、『大菩薩峠』などという古色蒼然たる小説を大きく掲げるのは、この本にとって不利だと心配したのではないか。
 たしかに、『大菩薩峠』(1913年〜1941年)はあたらしい小説ではありません。登場したのは今から90年近い昔のことです。
 しかも、これは、未完のまま終わってしまったまとまりのない物語です。
 そのうえ、長い。どれぐらい長いかというと、筑摩文庫の部厚いものが20冊です。
 では、面白いか。読者の多くが1冊目か2冊目ではやくも退屈で読むのを放棄してしまうほど、面白くない。
 主人公机龍之助の名はよく知られていますが、しかし、物語の颯爽としたヒーローなんかではなく、むごたらしい斬殺をはてしなくくりかえす陰欝なシリアルキラー(連続殺人者)なのです。
 新しくなく、まとまりがなく、面白くなく、かっこよくもない物語。いいかえれば、古臭く、ばらばらで、退屈で、むごたらしく、暗い――そんな物語。でも、みなさん、今、わたしたちが魅惑されるのはそんな「負」の物語以外になにがあるんでしょうか?
 大ベストセラーとなって映画化もされた高見広春の『バトル・ロワイアル』が、日本ホラー小説大賞の選考委員全員から罵倒にちかい非難を浴びて落選した作品であることはよく知られています。罵倒があの作品の評価を高めた。ホラー的要素だけではなく、そんなところも『大菩薩峠』に似ている。しかし、あれは『大菩薩峠』にくらべてはるかにまとまりのよい、わかりやすい物語です。『大菩薩峠』は、『バトル・ロワイアル』のどんなに少なく見積もっても100倍は、まとまりがなく、暗く、わかりにくく、それゆえ魅力的な物語です。
 理由なき殺人の物語。そう、『大菩薩峠』は、冒頭に「理由のない殺人」がおかれた物語なのです。物語のはじめに、なにか得たいの知れない大きな暗い穴があいていて、物語のつぎつぎに用意する価値(武士道、仇討、家族、友情、権力闘争、美、伝統、新思潮、そしてユートピア)では埋まらない、それどころか、穴はどんどん大きくなっていく。そのひろがる闇のなかに、失うものはなにもない、陽気な怪物たちが跳躍するのが確認できる、そんな物語なのです、『大菩薩峠』とは。
 いったい、「理由なき殺人」からはじまる物語は、どこにむかうのか?
 だから、『大菩薩峠』を読むということ、読みつづけるということは、じつは現在の「理由なき殺人」を考えることにかさなってくる。
 「理由なき殺人の物語」とは、誤解をうけやすいタイトルなんかではない。ほんとうのところ、わたしは、『大菩薩峠』を論じながら、現在の「理由なき殺人」の暗闇をさまよっていたのでした――こうして書いているいまもなお。




   <目次>

はじめに ――怪物・ホラー・解決不可能性

機,弔覆っていく理由なき殺人 ――不安の底で安堵する
供(語と介山と同時代と ――三〇の基礎知識 付登場人物紹介
掘[笋笋笋なる切断から ――変則世界への血みどろの通路
検ゝ愼な語を解体する  ――それと気づく前に変えてしまえ
后,呂犬泙蠅箸靴討痢嵳霎ぁ疔詼」 ――「帝国」の系譜学
此 峩界」がひろがる ――峠と間と辻と時代と
察〕杁い淵侫蝓璽ス ――回復を拒み雑音を聞く者たち
次ヽい隼海離罅璽肇團◆ 宗宗嵬橘勝廚寮治学、「失敗」の詩学

あとがき ――ふたたび、閉塞をやぶる物語へ



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